相続は一番の揉める原因
相続には揉めやすい家庭と揉めにくい家庭があり、どちらに当てはまるか確認した上で、揉めそうな場合は注意したり対策する事が必要です。
揉めやすい家庭
揉めやすい家庭に当てはまるのは、相続対象の子供が2人以上いる場合や、自宅を不動産として所有している家庭です。また財産全体の内で不動産の割合が高い家庭も、一般的に揉めやすい傾向にあるといわれています。これらの条件に該当する部分があるとしても、必ず揉める事になるとは限りませんが、しかしリスクとして念頭に置いておく必要はあるでしょう。子供の数は2名ならリスクは小さいですが、3名4名と大家族に近づくほどリスクが高まります。
自宅不動産は財産全体の50%超、つまり半分を超えていたら要注意です。一番の原因になり得るのはやはり不動産の割合で、複数の不動産を持っていたり割合が極端に高い場合は危険信号が灯ります。
揉めにくい家庭
揉めにくい家庭は単純に揉めやすい家庭の反対ですから、子供は1人っ子で兄弟姉妹がおらず、自宅不動産を持っていない家庭という事になります。不動産の割合は低ければ低いほど揉めるリスクは小さく、財産に不動産が含まれなければかなり安全だといえます。ただ相続で揉めるかどうかはあくまでも目安なので、絶対に大丈夫という保証はないです。
とはいえ、子供が1人の家庭が揉めにくいのも事実ですから、複数の要素の中で最も揉め事に発展しにくいのは1人っ子家庭でしょう。そもそも相続で争うライバルがいないので、こういう家庭だと揉め事起こる方が珍しいです。
遺言書の種類
遺言書には主に3種類あって、違いを理解したり用途に合わせて作る事が大切です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は文字通り自筆で書く遺言書の事で、被相続人の本人が書いて残すものです。自筆証書遺言は民法の第968条で定められており、財産目録を含む全文自書を始めとした内容で構成されます。全文自書は本文にあたる部分で、筆跡により被相続人本人が書いた事を確認しますから、代筆やワープロでの作成は不可能です。
ちなみに本人が書いたものであっても、ワープロやパソコンで作成してプリントアウトしたものは無効です。鉛筆書きは認められる事になっていますが、消しゴムで消えたり掠れる恐れがあるので推奨されないです。日付の自書は作成日時を記す事で、複数の遺言書が作成された場合に新しいか古いか判定するのに必要です。氏名の自書は遺言書が誰のものか明確にする為の項目ですが、本人と識別できるなら戸籍上の通称でも良い事になっています。押印は実印に限らず認印でも構いませんが、なるべく実印を押した方が無難だと思われます。
加除その他の変更は内容の変更点がある場合に、遺言書の作成者がそれを付記、署名して訂正印を押します。
この遺言書が効力を発揮するのは作成者の死後なので、それまで法務局などでしっかりと保管する事が大事です。
公正証書遺言
公正証書遺言は自筆ではなく、公証人が関与する形で作成する遺言書です。第三者が内容に関与する作成方法ですから、自筆証書遺言と比べてより確実で信頼性が高いといわれています。公正証書遺言はその信頼性から選択する人が多く、1年間の間に10万件近く作成された年もあるほどです。
また、約20年の間に公正証書遺言の作成数は約2倍に増えているので、明らかに注目されている事が分かります。公正証書遺言は公証役場において、公証人が作成を行いますから、効力は要件の不備によって無効になる心配がないです。自筆証書遺言は不備があると効力が失われてしまうので、正しい知識で作成する必要がありますが、それを知らないと折角作成した意味がなくなります。
何度も確認して正しいと思っていても、実は内容に不備があるというケースも珍しくないです。効力に問題はなくても、被相続人が意図しない形で解釈される事もあり得ますから、そういう事態を防ぐ意味でも公正証書遺言のメリットは大きいです。
公正証書遺言では財産を全て明確に記載する事になるので、その確認や書類集めに時間と手間を要します。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は生前に遺言の内容を誰にも明かさず、公証人に遺言が存在する事のみを証明してもらうものです。自筆証書遺言では遺言の作成を証明する必要がありますし、内容が曖昧だと効力がなくなったり、相続人同士のトラブルに発展する恐れが残ります。
公正証書遺言は内容の正確性が証明されますが、内容を公証人に明かさなければいけない欠点があります。秘密証書遺言は公証人にも内容が秘密なので、生前に誰にも知られたくない人にとって魅力的です。ただ内容を秘密にしたい人はあまり多くないからか、他の遺言書と比べて秘密証書遺言を選ぶ人は少ないです。
公証人が内容に目を通さないので、不備があって遺言書が無効になる事はあり得ますし、そのリスクは自筆証書遺言と大きく変わらないです。内容が有効かどうか分かるのは、遺言書が開封される被相続人の死後ですから、正しく作成したつもりでも無効になるリスクは非常に大きいといえるでしょう。ただし、秘密証書遺言が無効であっても、自筆証書遺言の要件を満たしていればこちらの遺言書として認められます。
正確性と万全を期すならやはり、公正証書遺言が合理的な選択なのは間違いないですし、作成後に不安を残さずに済みます。それでも人によっては自筆で作成したい、誰にも見せたくないという場合もありますから、選択肢に用意されているのも頷けます。
不動産がある場合は書き方に注意
財産に不動産がある場合は、その書き方に注意が必要となります。
住所や地目に変更がある場合
住所や地目に変更がある場合は、遺言書の中に住所の記載がありますし、登記事項証明書に変更前後の内容が記載されるので遺言書を書き直す事は不要です。しかし、遺言書の不動産の記載が不十分だったり、間違っていると認められないので、正しい内容でしっかり作成する事が大事です。
そもそも不動産自体は移動できませんし、住所や地目に変更がある度に遺言書を書き直すのは非現実的です。この為、法務局で不動産に関する全部事項証明書を取得して、内容を正確に遺言書に書く事が基本となります。土地は所在や地番と地目や地積、建物は所在と家屋番号や種類、構造と床面積で不動産の特定が行われます。
最初に書く不動産の内容に間違いがなければ、住所や地目が変わっても変更は登記事項証明書で分かるので、遺言書自体はそのままでOKです。
書き直した後に実は不要と気がつくと労力が無駄になりますから、必要性について確認してから判断する事が大切です。
住所表記ではなく地番表記を記載する
住所表記ではなく地番表記を記載する、これは遺言書の作成における最初のハードルと言っても過言ではないです。遺言書を知らない人が誤解しがちなのは、この不動産の所在地の記載が住所ではなく地番という点です。住所は郵便物などの配達に使用されますが、土地には住所と地番がついており、遺言書では通常の住所ではなくこちらの記載が求められます。
具体的には登記事項証明書を確認して、地番表記の所在地をそのままの形で遺言書に記載するだけです。うっかり住所を記載してしまったり、地番が分からず適当に書いてしまうと、不動産の確認や証明ができなくなるので注意です。気をつけていればまず大丈夫でしょうが、遺言書の作成は誰もが最初は初心者ですし、自筆証書遺言だと間違って記載しても気がつかない事があるので油断大敵です。
公正証書遺言なら比較的安心ですが、それでも公証人に任せきりにはせず、被相続人本人も念の為確認する事が肝心です。地番表記は住所表記に似ているので、そこが間違える恐れのある懸念事項で注意すべきポイントとなります。といっても地番表記を間違えるようでは先が思いやられますし、地番表記に限らず内容をよく確認する事は欠かせないです。
遺留分に注意する
遺留分に注意するというのは、法定相続分以外の遺留分の事で、遺言の内容で相続分が少ない場合でも一定の割合で相続を主張できる事から注意です。遺留分は配偶者のみだと2分の1、子供がいる場合は配偶者が4分の1、子供が4分の1となります。
配偶者の父母や兄弟がいる場合も、割合は変わりますが遺留分はあるわけです。被相続人は生前に自由に財産を処分できますし、相続で誰にいくら遺産をあげるかも自由に決められるはずですが、実際には遺留分の存在で制限が掛かります。遺留分を主張するかどうかは相続人の自由ですが、遺留分の割合は相続人の組み合わせや数によって決まるので、そこを頭に入れておく必要があります。
遺留分を考慮せずに割合を決めて遺言書に記載すると、死後に相続人同士のトラブルが生じやすくなります。不動産も遺留分の対象ですし、遺留分侵害額請求権が行われ認められれば、相手はその相当額を金銭で支払う必要が出てきます。不動産の価値を金銭で支払うとなれば相当が額になってもおかしくないので、争いや金銭的負担の発生を避ける意味でも、遺留分はしっかり確認して財産を分けるのが正解です。
遺言書には相続人の誰にどの財産をどれくらい相続させるか、具体的かつ明確に記載する事が不可欠です。
複数の解釈ができる遺言書などあっては駄目ですから、曖昧にしないで相続に関する全てを記載しましょう。
まとめ
遺言書は書き方1つですんなりと相続が実現したり、骨肉の争いに発展してしまう事もある厄介なものです。その為、一般的には作成に公証人が関与する公正証書遺言が選ばれます。被相続人が自らの手で遺言書を作成するなら自筆証書遺言ですが、内容に不備があると効力を失う事もあるので注意が必要です。秘密証書遺言は公証人にも内容を秘密にできますが、やはり内容の確認がないので不備により無効になるリスクが残ります。
遺言書は内容の書き方が指定されているので、指定通りに書かないと無効になってしまいます。土地は住所や地目に変更があっても書き直す必要はないですが、最初に正しく住所表記ではなく地番表記で記載する事が肝心です。それから遺留分にも注意が必要で、遺留分を考慮しないで相続の割合を決めてしまうとトラブルの火種になるので気をつけましょう。
揉め事なく相続できるのが理想的ですし、生前整理は有効な方法ですが、正しく遺言書を書いて作成する事が大前提となります。